カリフォルニアで起業する際の危険な落とし穴
カリフォルニアでビジネスを立ち上げる際、多くの創業者はコスト削減と柔軟性を求めて、初期メンバーを「独立請負人(Independent Contractor)」として採用しがちです。しかし、州の労働法は全米で最も厳格であり、この「独立請負人か、それとも従業員(Employee)か」という分類を誤ると、後々事業の存続を脅かすほどの高額な罰金と訴訟リスクに直面することになります。
スタートアップの皆さん、あなたのチームメンバーは法的に正しく分類されていますか?カリフォルニア州の法律は、あなたが考えているよりもずっと厳しい基準を設けています。
The Critical Legal Standard: ABCテストの衝撃
かつて、この分類は複数の要素を総合的に判断する「共通法テスト」に基づいていましたが、カリフォルニア州は現在、より厳格な「ABCテスト」(主にAB-5法によって規定)を多くの目的で採用しています。
ある個人を独立請負人として分類するためには、雇用主側が以下の3つの条件(A、B、C)をすべて満たしていることを証明しなければなりません。この3つのうち、一つでも満たせない場合は、その個人は自動的に従業員として扱われます。
A: Absence of Control(管理・指揮の不在)
会社がその個人に対して、契約履行に関連する業務遂行に関して、管理・指揮をしないこと。
- ポイント: これは最も重要な要素です。作業を行う方法、場所、時間まで会社が細かく指示している場合、従業員と見なされます。
B: Business Usual(通常の業務外)
その個人が提供するサービスが、会社が通常行う業務の範囲外であること。
- ポイント: 例えば、ソフトウェア開発会社が、ソフトウェア開発者を独立請負人として雇うことは、Bの条件を満たしません。清掃会社が会計士を雇う場合など、事業の核とは関係ないサービスであることが必要です。
C: Customarily Engaged(独立した事業活動)
その個人が、提供するサービスと同じ分野で、独立して確立された事業、職業、または取引に通常従事していること。
- ポイント: その個人が、そのサービスを他の顧客にも提供できる独立した事業体として活動している必要があります。専属的に一つのスタートアップのためだけに働いている場合は、Cの条件を満たすことは困難です。
誤分類の重い代償(The High Cost of Misclassification)
誤分類が発覚した場合、スタートアップが直面する財政的な影響は甚大です。
- 遡及的な支払い義務:
- 過去の未払い残業代、休憩時間未取得に対する罰金。
- 健康保険、有給休暇、病気休暇などの従業員給付の補償。
- 税金・罰則:
- 過去に支払うべきであった連邦および州の雇用税(FICA、FUTAなど)、**失業保険**、**州障害保険**の遡及的な支払いと高額な罰則。
- 労災保険に加入していなかった場合の罰則。
- 訴訟リスク:
- 個人による訴訟、集団訴訟(クラスアクション)、および州政府機関(EDD、DLSEなど)による調査と罰則。
スタートアップの初期段階では、数万ドルの罰金であってもキャッシュフローを圧迫し、ビジネスの成長を止めてしまいます。
スタートアップのための実務的な手順
高額な罰金を避けるために、カリフォルニアの創業者は次の原則を守るべきです。
- デフォルトは「従業員」と考える:
- ABCテストのB(通常の業務)に該当する重要な役割(エンジニア、デザイナー、マーケターなど)は、最初からW-2従業員として採用する方が、法的リスクを圧倒的に軽減できます。
- 契約書は魔法の言葉ではない:
- 契約書に「独立請負人である」と明記しても、実際の業務形態がABCテストを満たさない限り、法的には無効です。
- 実務上の線引きを徹底する:
- 独立請負人には、作業の方法、時間、使用するツールに関して自主性を持たせること。
- 彼らにオフィスのデスクや会社のメールアドレスを提供しない、勤務時間をトラッキングしないなど、従業員との明確な区別を保つこと。
まとめ
カリフォルニア州の法律は、雇用主が誤分類を意図していなかったとしても、**非常に厳しく責任を追及します**。
スタートアップが直面する最も初期の重要な決定の一つであるこの分類については、初期段階で**専門のカリフォルニア州弁護士**に相談し、適切な法的構造を構築することが、将来的な何百万ドルもの損失を防ぐ**最高の初期投資**となります。
疑問がある場合は、リスクを取らず、必ず従業員として分類してください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
