「カリフォルニアで会社を立ち上げたいけど、手続きが多くて何から始めればいいかわからない…」
「LLCとC Corporation、自分のビジネスにはどっちが合っているの?」
こういったご相談、本当によく受けます。ベイエリアやロサンゼルスで起業を考えている日本人の方から、毎月のようにお問い合わせをいただきます。
私自身、カリフォルニア州弁護士・日本弁護士として現地で多くの会社設立案件に携わってきました。手続き自体はそれほど複雑ではないのですが、知らないまま進めると後で痛い目を見るポイントがいくつかあります。このブログでは、そういった実務上の注意点も含めて、カリフォルニア州での会社設立の流れをわかりやすくお伝えします。
まず決めるべきこと:C CorporationかLLCか
カリフォルニアで事業を始める場合、選ばれる会社形態は大きく分けてC CorporationとLLC(Limited Liability Company)の2つです。どちらも個人の資産を会社の負債から守る「有限責任」の保護を受けられますが、税務・運営面で大きく異なります。
C Corporation
向いているケース:将来的な投資家からの出資受け入れ、株式による資金調達、またはIPO(株式公開)を視野に入れている場合
スタートアップがVC(ベンチャーキャピタル)から投資を受ける際、多くの投資家がC Corporationを求めます。株式の発行・譲渡がしやすく、複数の投資ラウンドにも対応できる柔軟性があるためです。また、法人格がしっかりしているため、大企業との取引や契約においても信頼を得やすいです。
注意点:二重課税の問題があります。会社の利益に対してまず法人税が課され、さらに株主への配当にも個人所得税がかかります。また、取締役会の開催・議事録の作成・年次総会など、LLCに比べると運営上のルールが厳格です。なお、2026年現在、新設C Corporationは初年度のフランチャイズ税($800)が免除されます(2020年以降の措置、継続中)。
LLC(有限責任会社)
向いているケース:小規模・中規模のビジネス、不動産保有・管理、家族経営の事業など
LLCの最大の魅力は「パススルー課税」です。会社レベルでは課税されず、利益はそのままメンバー(出資者)の個人所得として申告します。取締役会も不要で、Operating Agreement(運営規約)の内容もかなり自由に設計できます。
注意点:VCからの投資を受けにくく、大規模な資金調達や将来の上場には向きません。また、2024年以降に設立されたLLCは、初年度から$800のフランチャイズ税の支払い義務があります(2021〜2023年に存在していたAB85による初年度免除は終了済み)。
結論として:スタートアップとして投資を集めていく予定があるならC Corporation、比較的小規模で柔軟に運営したい場合はLLCが適しています。迷ったときは、ビジネスモデルと出口戦略(Exit Strategy)を整理してから判断することをお勧めします。
会社設立の5ステップ(2026年最新版)
STEP 1:会社名の決定と空き確認
会社名を決める際には、いくつかのルールを押さえておく必要があります。
まず末尾の表記について。Corporationであれば “Corporation” “Corp.” “Incorporated” “Inc.” のいずれかが必要で、LLCであれば “LLC” “L.L.C.” “Limited Liability Company” などの表記が求められます。
使えない単語もあります。”Bank” “Trust” “Trustee” “Insurance” “Corporation”(LLC名に)などは法的に使用が制限されています。うっかり使ってしまうと申請が却下されるので注意が必要です。
名前の空き確認は、California Secretary of State(カリフォルニア州務長官)のBizFile Onlineポータルで検索できます。ただし、現在申請中の名称は検索に出てこないため、完全には確認できないという点はご承知おきください。気に入った名前は60日間の「名称予約(Name Reservation)」をしておくと安心です(手数料:$10)。
STEP 2:定款の提出(Articles of Incorporation / Articles of Organization)
会社設立の核となる書類の提出です。
C Corporationの場合は「Articles of Incorporation(Form ARTS-GS)」、LLCの場合は「Articles of Organization」をBizFile Onlineからオンラインで申請します。2025年以降、LLCはオンライン申請のみ対応しており、郵送での受付は廃止されています。オンライン申請であれば通常2〜3営業日で処理されます。
2026年現在の申請手数料:
- LLC(Articles of Organization):$70
- C Corporation(Articles of Incorporation):$100
急ぎの場合は特急処理($350〜$750の追加料金)も選べます。最速の当日処理(Class A)は対面申請+$500のpreclearanceが必要で、合計$1,000超になります。
なお、「Registered Agent(登録代理人)」は設立の際に必ず指定する必要があります。カリフォルニア州内に住所を持つ個人または登録済みの法人であれば、ご自身をAgentにすることも可能ですが、弁護士事務所や専門の代理人サービスを使う方が実務上は便利です(サービス費用の目安:年間$100〜$300)。
STEP 3:EIN(雇用者識別番号)の取得
EIN(Employer Identification Number)は、いわば会社の「マイナンバー」のようなものです。銀行口座の開設、従業員の雇用、税務申告などあらゆる場面で必要になります。取得費用は無料です。
取得方法は、IRSのウェブサイトからオンラインで申請するのが一番手早く、申請当日に番号が発行されます。ただし、申請者(責任者)のSSN(社会保障番号)またはITIN(個人納税者番号)が必要です。
米国の税務番号をお持ちでない方は、Form SS-4を郵送またはFAXで提出することになります。この場合は4〜6週間かかりますので、設立スケジュールの早めに動くことをお勧めします。
STEP 4:取締役会の開催と役員の任命(C Corporation)
C Corporationの場合、設立後に取締役会(Board of Directors)を正式に開催する必要があります。
最低限任命が必要な役職は、CEO・CFO・Secretaryの3つです(カリフォルニア州法上、1人がすべてを兼任することも可能です)。
この取締役会では、会社規則(Bylaws)の採択、役員の正式な任命、株式の発行承認などを決議します。これらは議事録(Minutes)としてきちんと文書化しておくことが重要です。将来の資金調達や銀行口座開設の際に必要になることが多いです。
LLCの場合は、取締役会の代わりにOperating Agreement(運営規約)を作成します。提出義務はありませんが、メンバー間の権利・義務関係を明確にするうえで非常に重要な書類ですので、設立時にしっかり整備しておくことをお勧めします。
STEP 5:Statement of Informationの提出
設立後は「Statement of Information(情報申告書)」の提出が必要です。
- 提出期限:設立後90日以内に初回提出
- その後の頻度:LLCは2年に1回(隔年)、C Corporationは毎年1回
- 手数料:LLC $20 / C Corporation $25
- 申請方法:BizFile Onlineからオンライン(2025年以降はオンラインのみ)
- 遅延ペナルティ:期限を過ぎると$250の罰金が発生
記載内容は、役員・取締役・Registered Agentの氏名・住所・事業内容などです。これを怠ると罰金が発生し、最終的に会社が「Suspended(事業停止)」状態になることもあります。設立後のカレンダーに必ず入れておいてください。
設立後に知っておくべき重要事項(2026年版)
フランチャイズ税(Franchise Tax)
カリフォルニアで事業を行う法人・LLCには、最低$800/年のフランチャイズ税が課されます。利益がゼロでも、事業を休止していても支払いが必要で、正式に会社を解散するまで毎年続きます。
会社形態によって初年度の取り扱いが異なります:
- C Corporation:2020年以降に新設された法人は初年度免除(2026年時点で継続中)。2年目以降は毎年$800(または純利益の8.84%のいずれか高い方)。
- LLC:2021〜2023年設立分に適用されていたAB85による初年度免除は終了済み。2024年1月1日以降に設立されたLLCは初年度から$800の支払い義務あり。
また、LLCで年間総収入が$25万を超える場合は、追加のLLC Feeも発生します($900〜最大約$12,000)。年度の途中で$25万超えが見込まれる場合は、Form 3536で予定額を申告・納付する必要があります。
なお、「年の後半に設立する」と連続納付を避けられるという節税テクニックもあります。たとえば6月設立の場合、初回は設立後4か月以内(9月15日が目安)、2回目は翌年4月15日と立て続けになります。12月設立であれば、初回は翌年4月15日の1回で済む場合があります。設立タイミングはキャッシュフローにも影響しますので、ご相談いただければアドバイスできます。
AB5(ギグワーカー・業務委託の扱い)
2020年に施行されたAB5(Assembly Bill 5)は、フリーランサーや業務委託で働く人の「従業員認定」に関する法律です。一定の要件(ABCテスト)を満たさない限り、業務委託契約者も「従業員」として扱われ、最低賃金・労働時間・福利厚生などの労働法が適用されます。
特にライドシェア、デリバリー、コンテンツ制作、通訳・翻訳などの業種でよく問題になります。ギグワーカーや業務委託スタッフを使う予定がある場合は、契約書の設計段階からAB5を意識することが重要です。違反が発覚した場合、未払い賃金・罰金・訴訟リスクが生じます。
BOI報告(Beneficial Ownership Information)
連邦レベルでは、FinCEN(米財務省金融犯罪取締ネットワーク)へのBOI(実質的支配者情報)報告が一時義務付けられていましたが、2025〜2026年にかけて法的な変更が続いています。2026年現在、多くの米国内法人・LLCはBOI報告義務から暫定的に免除されている状況です。ただし、状況が変わる可能性があるため、最新の要件については設立後に必ず確認することをお勧めします。
よくあるご質問(2026年版)
Q. Lビザ(企業内転勤者ビザ)の取得に、現地の会社登記は必要ですか?
はい、必須です。Lビザは日本の親会社・関連会社から米国の関連法人への転勤という形をとるため、米国側に受け入れ法人が存在していることが前提となります。支店登記(外国法人登録)でも、現地法人の新規設立でも対応できますが、状況によって最適な方法が異なりますのでご相談ください。
Q. デラウェア州とカリフォルニア州、設立するならどちらがよいですか?
実際にカリフォルニアで事業を行う場合は、カリフォルニアでの設立が無難です。デラウェアで設立しても、カリフォルニア州内で営業すれば「外国法人登録(Foreign Qualification)」が別途必要になり、手数料や年次報告書など二重の手続きが発生します。デラウェア設立が有利なのは、主に大規模なVC投資を想定しているケース(デラウェア州法がVCや株主に馴染み深いため)に限られます。
Q. 銀行口座の開設はどうすれば良いですか?
EINの取得後、Articles of Incorporation(またはArticles of Organization)と会議の議事録を持参して銀行で手続きします。銀行によって必要書類が異なります。最近はオンラインで口座開設できる銀行(Mercury、Relayなど)も増えていますが、大手銀行(Chase、Bank of Americaなど)は対面手続きを求めることが多いです。在米でない方は、渡航前に銀行ごとの要件を確認しておくとスムーズです。
Q. 設立にかかる総費用の目安は?
LLC設立の場合、州への申請費用($70)+初年度フランチャイズ税($800)+Statement of Information($20)で、最低でも初年度は約$890が必要です。C Corporationは申請費用$100+Statement of Information $25で初年度フランチャイズ税は免除。これに登録代理人費用(年$100〜$300)や弁護士・会計士への依頼費用が加わります。
カリフォルニアでの会社設立は、手順を把握しておけば決して難しいものではありません。ただ、会社形態の選択・税務設計・ビザとの兼ね合いなどは、個々の状況によって最適解が変わります。
ご不明な点やご相談がある場合は、お気軽にお問い合わせください。
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田中良和
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
サンフランシスコ・ベイエリア / ロサンゼルス
