米国で銀行口座を開設したいが、渡航できない——そんな相談が、日本在住の方から寄せられることがあります。
法律上、外国在住者が米国の銀行口座を開設すること自体が禁止されているわけではありません。しかし実務上は、本人確認・住所確認・税務情報・銀行ごとの内部ルールの問題があるため、日本にいながら米国銀行口座を開設するのは難しいケースが多いのが実態です。
1. 本人確認の壁
米国の銀行は、口座開設時に顧客の本人確認を行う義務があります。一般的には、氏名・生年月日・住所・本人確認番号を確認し、必要に応じてパスポート、運転免許証、その他の身分証明書の提出を求めます。
本人確認番号としては、SSN(社会保障番号)、ITIN(個人納税者番号)、パスポート番号と発行国、外国人登録番号、その他の政府発行ID番号などが認められています。
日本在住者の場合、パスポートを持っていても、以下の情報を追加で確認されることがあります。
- 米国住所・米国電話番号の有無
- SSNまたはITINの有無
- 米国での滞在資格
- 米国での事業や収入との関係
2. 来店が求められるケースが多数
実務上、もっとも大きなハードルは銀行への来店を求められることが多いという点です。
特に次に該当する場合、オンラインだけで本人確認を完了できないことがあります。
- 米国に居住していない
- 米国での信用情報がない
- SSNを持っていない
- 米国住所を持っていない
銀行はマネーロンダリング防止・詐欺防止・制裁対象者チェック・税務情報の確認などを義務として負っており、「初回口座開設は支店での本人確認が必要」という内部方針を設けているところも少なくありません。
日本に在住したまま米国銀行口座を作りたい場合でも、現実には米国渡航時に支店を訪問して手続きを行う方が確実なケースが多いです。
3. オンライン開設が可能なケースも
もっとも、すべての銀行で来店が必須というわけではありません。
銀行によっては、Web上でパスポート・住所確認書類・税務情報・ビデオ認証などを使って本人確認を行い、日本にいながら口座開設を進められる場合もあります。
また、以下のような状況にある場合は、通常より手続きが進みやすいこともあります。
- すでに米国の銀行と取引関係がある
- 米国法人を設立している
- 米国に事業拠点がある
- 米国の会計士・弁護士・会社設立業者などを通じて紹介を受けている
ただし、オンライン開設ができるかどうかは、銀行名・口座の種類・個人口座か法人口座か・SSNやITINの有無・米国住所の有無・申請者の国籍や居住地・事業内容などによって大きく異なります。
4. 銀行ごとに対応は大きく異なる
米国では、銀行ごとに口座開設のルールがかなり異なります。
ある銀行では非居住者でもパスポートと追加書類で開設を検討してくれる一方、別の銀行では米国住所・SSN・米国発行IDがなければ受付自体が難しいこともあります。
さらに、同じ銀行でも支店・担当者・申請者の状況によって対応が異なることがあります。非居住者の口座開設については、コールセンターの回答と実際の支店での対応が食い違うケースも珍しくありません。
5. 事前に確認すべきポイント
日本在住者が米国銀行口座の開設を検討する際には、少なくとも以下の点を事前に確認しておく必要があります。
- 日本在住者でも口座開設を受け付けるか
- オンラインで本人確認が完了するか、支店への来店が必要か
- SSNまたはITINが必要か
- 米国住所が必要か、日本住所でも登録できるか
- 米国電話番号が必要か
- 個人口座か法人口座か(口座種別の確認)
- 初回入金方法は何か
- 口座維持手数料・最低残高・国際送金手数料はいくらか
6. 法人口座はさらに審査が厳格
米国法人の銀行口座を開設する場合、個人口座よりも多くの書類が求められます。具体的には、会社設立書類・EIN(雇用者番号)・Operating AgreementまたはBylaws・株主や役員の情報・事業内容・事業住所・実質的所有者の情報などです。
近年は実質的所有者の確認や不正利用防止の観点から、法人口座の審査は年々厳しくなっています。日本在住の代表者が渡航せずに法人口座を開設しようとする場合、銀行によってはかなりハードルが高くなっています。
まとめ:「どの銀行で、どの口座を」が重要
日本に在住しながら米国で銀行口座を作ることは、法律上まったく不可能というわけではありません。ただし実務上は、SSN・ITIN・米国住所・米国発行IDがない場合、口座開設のハードルが高くなるケースがほとんどです。
重要なのは「米国銀行口座は作れるか」という一般論ではなく、どの銀行で・どの種類の口座を・どのような身分・住所・税務情報で開設するのかを具体的に検討することです。
米国での事業開始・不動産購入・留学・移住・投資などのために口座が必要な場合は、渡米前に必要書類を整理し、候補となる銀行に事前確認しておくことをお勧めします。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の銀行での口座開設を保証するものではありません。実際の手続きは、銀行ごとの最新の方針・申請者の状況・米国法および税務上の取扱いによって異なります。重要な判断を行う前に、専門家へのご相談をお勧めします。
カリフォルニア拠点(ロサンゼルス、サンフランシスコ、ベイエリア)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
